公立はこだて未来大学にフィットするデザイン基礎鍛錬の実践と考察

安井研究室 小松崎隆人

 筆者の所属する公立はこだて未来大学(以下,本学)情報デザインコースでは,情報学や認知心理学に基づいて,デザインプロセスを繰り返し経験するカリキュラムが実施されている.そこでの自身の学びを振り返ると,デザイン領域の学習には2つの手法の枠組みが考えられる.1つ目は,あるテーマをもとに作品を制作する講義課題.2つ目は,観察力や描画力などの能力を鍛える基礎鍛錬(例えば,デッサンやスケッチ,フィールドワークなど)がある.この2つの手法をスポーツで例えるならば,講義課題は練習試合に相当し,基礎鍛錬は筋力トレーニングや素振り,走り込みなどに相当すると言える.そこでデザイン課題を行うに当たって筆者自身に足りないと感じることに,「観察力や描画力などの能力を集中して鍛える基礎鍛錬の経験」がある.これらの経験を得るためには,講義課題などの学びだけでなく,その能力に適した鍛錬が必要と考えた. 本研究では,このデザインにおける鍛錬のことを「デザイン基礎鍛錬」,そして,デザイン基礎鍛錬の鍛錬内容については「種目」とそれぞれ呼称する.そしてデザイン基礎鍛錬とはどのようなものかを,自身のデザイン基礎鍛錬の実践から考察していくとともに,本学の情報デザインコースに所属する学生にとってフィットするデザイン基礎鍛錬とはどのようなものかを明らかにすることを目的とする.

 本研究では,本学情報デザインコースにフィットするデザイン基礎鍛錬とはどのようなものか,自身の実践による学びから一人称視点で観察・記述を行ってきた.一般的に行われているデッサンを実践することから,デッサンにおける学びについての考察を行った.そして,デッサンは広く一般的にデザイン基礎鍛錬として認められているものであり,それに加えて,筆者自身の実践から,デッサンには観察力や描画力だけでなく,ものの比率の感覚を理解することや,やってみてわかるという気づき,または自己理解など学ぶ人によって無数に生まれてくる.それらの学びを体系的に会得できるものであると言える.そして,デザイン基礎鍛錬とは,鍛錬内容そのものに対して,楽しさ理解しやすさなどを期待できるものではなく,1度や2度取り組んだ程度で学びの真意を理解できるとは言えない.デザイン基礎鍛錬における学びには,鍛錬の手法が何であれ,「継続的」に行うことが前提にあると筆者は考えた.しかし,本学の学生にとってフィットするデザイン基礎鍛錬の種目がデッサンであるとは言い切れなかった.

そのことを踏まえ,新たなデザイン基礎鍛錬の種目を考え,「図解」という本学の学生にとって講義課題で経験してきた内容をピックアップした.そして,図解の参考教材である,「図解力アップドリル」の内容を実践したところ,そこでの学習プロセスには,その他のデザイン基礎鍛錬との類似性があり,これもまたデザイン基礎鍛錬と言えた.そして,図解表現という本学,情報デザインコースに所属する学生にとって馴染み深い内容であり,学びの必要性を感じやすい内容であることから,これが本学にフィットするデザイン基礎鍛錬の一つであると結論づけた.そして,その鍛錬を支えてくれる教材が既に身近に存在していることに改めて気づく結果となった.

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