新たな宅配サービスの受容とリスク・空間に認知の分析

南部研究室 荒戸大輝

 新型コロナウイルスの感染拡大の影響により拡大防止策として 「密」の回避や外出自粛 が行われている .必要最低限の外出で留めるために,買い物に出かける回数も減っている.そのためコロナ禍に伴う巣ごもり需要により,宅配便や飲食店の出前,フードデリバリーサービスの利用が増加している.国土交通省の報道発表資料によると, 2020年度の宅配便取扱個数は前年から11.9%増加し,過去最多を更新した.宅配の利用が増加する中で, 新たな宅配サービスが身近になりつつある.アメリカやイギリスなどでは一般的な置き配が, 日本でも普及してきた.さらに,共同住宅のオートロックを配達員が解錠し,部屋前に置き配をおこなうAmazon Key for businesの導入や,無人で空輸をおこなうドローン宅配の実証実験が開始されている.
置き配などの新たな宅配サービスが拡大したことで,新たな不安の声も挙がっている.令和 2 年 3 月に国土交通省,経済産業省によっておこなわれた第 5回置き配検討会では,盗難等のトラブルや外装表示によるプライバシー課題など ,リスクとプライバシーの両方の面で不安があるとまとめられている .また,大きな課題としてリスク・セキュリティ対策,たくさんの人が利用することになった際の置き配実施の留意点,指定可能な場所の範囲が挙げられている.しかし, リスク認知には様々な要因による個人差があると考えられる また, 空間とリスクの認知によって宅配サービスの受容にも変化が生じると予想されるさらに,新たな宅配サービスを充実させるためには,既存のサービスで どのように空間とリスクを判断しているのかも検討する必要がある.
 本研究では,リスクと空間の認知と宅配サービスの受容に着目した.年齢や性別などの,デモグラフィック変数と宅配経験の有無,配達の仕事経験の有無によって,宅配サービスの受容,リスク認知,空間の公私にどのような差があるのかを質問紙調査の回答データを使用し分析した.そして,どのような新たなサービスが受容されるのかを検討した.

5種類の場所・空間の画像を評価した.それぞれの画像について,空間として「公的ー私的」と置き配場所として「安心ー不安」をそれぞれ6件法で回答した.また,その得点をそれぞれ私的得点,不安得点とした.その得点が性別,配達の仕事経験,宅配/置き配利用の経験によって差が表れるのかを分析した.その結果,宅配経験の有無によって得点に差があることが明らかとなった.アパート1階の空間では宅配利用者の方が公的空間と捉え,階段先に玄関がある家の空間では非利用者の方が公的空間だと捉えた.また,不安得点は階段先に玄関がある空間で宅配の非利用者がより不安に感じることが示された.
 次にAmazon Key for businesの紹介動画とドローン宅配の実証実験動画を視聴し,それぞれの宅配方法について「安心ー不安」とこの宅配方法を「利用したくないー利用したい」のそれぞれ6件法で回答した.また,その得点をそれぞれ方法不安得点,利用希望得点とした.そして,それぞれの宅配方法にはどのようなリスクがあるのかを自由記述で回答した.画像の評価と同様に,得点が基本属性と経験によって差が表れるのかを分析した.その結果,Amazon Key for businesは性別によって方法不安得点に差が表れ,利用希望得点の差が有意傾向となった.また,ドローン宅配では性別によって利用希望得点の差が有意傾向となった.
 そしてリスクの自由記述ではAmazon Key for businesで配達経験がない人は配達経験がある人よりも宅配者をリスクに起因する因子となると考えていた.ドローン宅配は男性が宅配途中にある障害物を女性よりもリスクであると考えていた.
 その後,画像の私的得点,不安得点と動画の方法不安得点,利用希望得点に関連があるのか明らかにするため相関分析をおこなった.また,画像の評価を既存のサービスの評価,Amazon Key for businesを人と人が関わる新サービス,ドローン宅配を人とモノが関わる新サービスと捉えた.その結果,既存のサービスを不安に感じている人は人と人が関わる新サービスに不安を感じ,あまり利用したくないと考えていることが明らかとなった.しかし,既存のサービスと人とモノが関わる新サービスに相関関係はなかった.
 分析によって,宅配を利用していない人はアパートを外部からの介入が少ない空間だと考え階段先に玄関がある空間は介入が少なくない空間で不安だと判断していると考えられる.
 また新たなサービスの受容を考えると,人と人が関わる新サービスは,男性よりも 女性の方が 自らのエリアに外部からの介入を歓迎していないことが考えられる.また,人とモノが関わる新サービスは,空間の認知と関連がなかったものの,男性が女性よりも利用したいと考えていた.このように人とモノが関わる新サービスはモノへの関心のような要因が受容に関連があるのかもしれない.

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