行動変容を促すPOP広告の訴求内容についての研究

木村研究室 中川結

調査によると、日本のスーパーマーケットにおける非計画購買(来店前には予定していなかった商品を購入すること)が8割を超えている。そのため、購買促進ツールとしてのPOP広告は重要視されてきた。
2021年5月『闇落ちとまと』が話題になった。尻腐れと呼ばれる特有の生理障害を発症したトマトは一部が黒く変色してしまい、見た目の悪さから一般には流通してこなかった。 しかしフルーツトマトの曽我農園では、トマトとPOP広告の写真をSNS上にアップロードしたところ大きな反響を呼び、2020年5月の2倍の売り上げを記録したという。 「並外れた資質を持ちながら暗黒面に落ちたアナキン・スカイウォーカーみたいでかわいそうですですよね!」とユニークで主観的な紹介がさらに話題をよんだ。 福岡市美術館ではおもしろキャプションと呼ばれる書き手の主観的な考えを全面に押し出したユニークなキャプションが制作されている。 作品に対する新たな解釈を得られると好評を得ており、作品、さらには美術館自体への親しみやすさをもたらしている。

これらの例に見られるように、公式的な情報を伝えるだけではなく、送り手側の主観的なメッセージを伝えるものも見られるようになった。それらがどれほど影響を与えているのかについて体感的な見解の場合が多い。 POP広告の内容に着目した研究が少ないことが課題としてあげられている。これらを踏まえ本研究では、主観的なメッセージを含むPOP広告が購買者の行動変容に影響を及ぼす効果を明らかにすることを目的とした。

出典:フルーツトマトの曽我農園(@pasmal0220)2021年5月22日投稿

[https://twitter.com/pasmal0220/status/1395945204876681216?s=20]

出典:福岡市美術館

主観的メッセージを含むPOP広告を制作するために、コトPOPの枠組みを用いた。コトPOPは商品の機能や特徴を伝えるだけのPOPとは違い,購買者にとって「どんなメリットを生むか」ということを書き手の価値観と言葉で訴求するPOP広告である。
価値がわかるコト・役に立つコト・ワクワクするコトの3つのコトを用いて、購買者の発見,興味・関心,共感,納得を引き出そうとするものである。 主観的メッセージを含むPOP広告(以下、コトPOP)の効果測定のために非計画購買場面を想定したフィールド実験を実施した。 実験では、従来型のPOP広告である価格訴求を目的とした価格型POPと、消費場面などのイメージ訴求を目的としたイメージ型POP、そしてコトPOPの三つのPOP広告を使用した。 掲出による効果を直接的に検討できる指標として対象商品の購買率を用いた。 組み合わせを変えて全4条件(条件1:価格型POPのみ掲出 条件2:価格型POPとイメージ型POPを掲出 条件3:価格型POPとコトPOPを掲出 条件4:3種類同時掲出)設けた。 価格型POPは購買決定にあたり必要な情報を含んでいるため、ほとんどの場合、掲出されていることが基本の状態である。そのため全条件に価格型POPを含み、結果の検討においては条件1を基準として、条件2、条件3、条件4と比較検討した。 結果として条件3において購買率が有意に向上し、コトPOPの掲出による販売促進効果がみられた。

本研究は、商品の魅力や価値をPOP広告を用いてどのように伝えれば、購買者の行動変容へ影響を及ぼす効果が得られるのかについて、主観的メッセージを取り入れる方法を検討した。
実験で得られた結果は、主観的メッセージが非計画購買者の購買行動へ効果的に作用したことを示唆している。

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