触覚を活用して遊ぶ実体物ゲームの制作と評価

安井研究室 五十嵐大智

人間は、視覚・触覚・聴覚・味覚・嗅覚といった複数の感覚から外部の情報を受け取る。その情報は、全体の約80%が視覚から受け取るものと言われている。 一方、触覚は全体の約1.5%しか情報を受け取らないとされている。社会的に見ても、視覚情報が重要とされている事例がほとんどである。これは「娯楽」の面でも見受けられ、 例えばトランプやUNOなどはカードの情報を視覚情報として得なければプレイすることは困難である。デジタルゲームなども画面などの視覚情報をもとに操作を行う。 また、SONYのPlayStation5ではゲーム内のアクションの効果や衝撃をダイナミックな触感として手元に感じとることができる「触覚フィードバック」が搭載されているが、 これは補完的なものであり、ゲームの効果を高めるものである。現在、触覚を活用して遊ぶゲームはいくつか存在するが、視覚を活用して遊ぶゲームと比べるとまだ発展途上である。 そこで、新しい触覚を活用したゲームが制作できるのではないかと筆者は考えた。
本研究では,触覚情報を活用することで楽しめる新しい遊び方のゲームが実現できると期待する。

本研究では、人間の知覚の中でも触覚に着目し、触覚情報が重要となる4つのゲームを提案した。また、そのゲームを行うために、使用するコンポーネントをプロトタイプとして制作を行った。 このコンポーネントは、ペアであればガタつきなくピタッとハマるものとなっている。研究方法としては、木下らを参考に、「make」「feel」「think」というプロトタイプ制作の三段階を 繰り返すことによって探索的な検討を行った。
初めに調査を行った後、いくつかのオリジナルゲームのアイデアを出し、その中から触覚を取り入れたゲームを行うためのアイデア出しを行った。その結果、トランプゲームの「神経衰弱」を参考にプロトタイプ1を制作した。 また、プロトタイプ1を改良したプロトタイプ1’も制作した。次にプロトタイプ1’の改善点を挙げ、それを解決する3つのプロトタイプ2、3および4を制作した。プロトタイプ4が他の2つに比べて触覚的であると感じたことより、 これをもとにプロトタイプ5を制作した。プロトタイプ5は、触覚で遊ぶものとして成り立つのかを確認するために制作した。被験者の意見より、このゲームの可能性を確認することができたが、ペアでないもの同士でもハマると感じてしまうものであった。 そこで、プロトタイプ6で、ペアでないもの同士をペアでないものと感じさせるために凹凸の厚さの差の違いなどを確認した。プロトタイプ7では、これまでに試行錯誤した結果を踏まえ、ゲームのコンポーネントとなるものを制作した。 また、プロトタイプ4まではレーザーカッターによる加工を行なっていたが、精度に欠けていたためプロトタイプ5からはミリングマシンでの加工に変更した。さらに、指にひっかかりを感じさせないため凹凸の横面を45°の法面にするなどとした工夫を行った。
プロトタイプ7を使用して4つのゲームで遊んでもらい、6名の被験者(3人1グループ)にSUSを用いたアンケートとインタビューで評価を行った。SUSアンケートより6名の被験者の平均スコアは、ゲームごとに、神経衰弱:79.1点、ババ抜き:76.7点、 ペア作りタイムアタック:90点、触覚×会話ゲーム:85.4点という結果になった。よって、今回提案した4つのゲームは全てSUSスコアの平均点を超え、良い評価を得ることができたと言える。
また、SUSスコアからもわかるように被験者たちは、「ペア作りタイムアタックが一番触覚に集中して遊ぶ点などから最も面白い、好き」との意見を得ることができた。神経衰弱、ババ抜きに関しては、ゲームとして改善するべき点も挙げられた。 コンポーネントの触知については、「慣れるまでには時間がかかるが、慣れてくるともう少し凹凸のパータンを増やして難しくしても良さそう」との意見もあった。

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